■人が人に魅せられる瞬間を丁寧に描く『アルスラーン戦記』
最近の日曜日夕方のお楽しみは、アニメ『アルスラーン戦記』。
原作は『銀河英雄伝説』の田中芳樹さん、漫画・キャラデザインが『鋼の錬金術師』の荒川弘さん。
『アルスラーン戦記』の原作第1巻発行は1986年。古い。名前だけは知っていました。でも、若かりし頃の私は、ゲド戦記とグイン・サーガに夢中で…
未完の作品と聞いていたのも原作には食指が動かなかった理由のひとつです。
荒川弘さんの漫画は大好きですが、原作つきか…オリジナルマンガが読みたいよな~と思っていたので、こちらも何となく手が伸びず。
でも、TVアニメはタダだしな!っていう動機で視聴開始したのですが。
ああ、面白い! 骨太の歴史ファンタジー、見応えありありです。
久方ぶりにミーハー魂がボウボウと燃え上がり、毎週楽しみで仕方ありません。
第四章「厭世の軍師」は特に見応えがありました。
海野チカの『はちみつとクローバー』に「人が恋に落ちる瞬間を初めて見てしまった」という印象的なシーンがありますが、第4話では、「人が人に魅せられる瞬間」とそれに至るまでの過程がとても丁寧に描かれています。
※ここから先はネタバレを含むアニメの感想なので、未読・未視聴の方は注意。
改行代わりの商品紹介の下に記事が続きます。
王都炎上・王子二人 ―アルスラーン戦記(1)(2) (カッパ・ノベルス)
- 作者: 田中芳樹,丹野忍
- 出版社/メーカー: 光文社
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ハチミツとクローバー (1) (クイーンズコミックス―ヤングユー)
- 作者: 羽海野チカ
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2002/08/19
- メディア: コミック
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初陣でアトロパテネの戦いで敗走したアルスラーン王太子(14歳)は、ダリューン万騎長と共にたった2騎で落ちのび、ダリューンの友人である隠者ナルサスを訪ねます。
ナルサスはかつてはパルス国の宮廷書記官の地位にありましたが、度重なる讒言が原因で領地を返上し、「好きな芸術」に没頭する隠遁生活を送っていたのでした。
その芸術の才能は、本人の熱意にも係わらず大変残念なもののようですが…
稀代の戦略家であるナルサスは、ダリューンやアルスラーンが助力を求めてきたことは百も承知。応じるつもりはもとよりありませんが、王太子の器量を見極めようとしている様子は、たびたびカットインする「殿下をじっと見つめるナルサスの図」で推し量ることができます。
食事をしながら、軍師ナルサスの過去の偉業に話が及びます。「どのような策を弄したんだ!?」と目を輝かせて奇策に聞き入る素直な王太子。
※軍師としては政治や戦術に興味を持たない指揮官はお呼びではありません。
ナルサスは自分が王の不興をかっていたことを告げ、その反応を注意深く観察します。
「父王陛下は奴隷制度を廃止なさるべきだったのです。このような考えゆえ、私は父王に嫌われてしまいました」
「私もダリューンも父上に嫌われておる。どうせなら仲よく嫌われようではないか」
ここで「おや」といった表情のナルサス。
強い覇王の庇護下で二代目が貧弱に育つのはよくあること。
軟弱そうに見えるアルスラーンが意外と依存的性向を持っていないことに興味をひかれた様子がうかがえます。
考えを聞かせて欲しい、とのアルスラーンに対し、
「真に非礼かと存じますが、お約束はできません。ただ、ここにおいでの間はできるだけのお世話をさせていただきます」
「わかった。無理を言ってすまなかった」
地位を盾に強要することはしない王太子をじっと見つめるナルサス。
深夜のダリューンとナルサスの会話。
「どうだ、ダリューン。お前から見てアルスラーン殿下という人物は」
「此度は置き去りにした兵を気にかけ、落ち込んでおられた。カーラーンの裏切りにも怒りより悲しみが勝ったようだ。繊細で優しい方だ…だが、そこが心配だ」
王と王妃のアルスラーンへの冷淡な態度にも話は及び、王太子の出自にまつわる何か?を匂わせます。
翌朝、カーラーン兵の襲撃を撃退した後。
剣の師匠でもあったヴァフリーズ大将軍の死を知ったアルスラーンは涙します。
「いつも…稽古をつけてくれたのだ。ヴァフリーズが鍛えてくれなければ…私はアトロパテネで死んでいた。なのに…私はいつも愚痴ばかりを… ヴァフリーズ…」
一見軟弱に見える泣きっぷりですが。
仕える立場としては、忠誠をただいたずらに受けるだけでなく、その忠誠に応える心があってこそ命を賭けて尽くす甲斐があるというもの。
恥ずかしげもなく涙を拭う王太子を静かに見つめるナルサスは、そんなことを感じていたのではないでしょうか。
ここまでで、ナルサスとしてはアルスラーン王太子に関心を持つものの、「悪くない」といった程度かと思います。
自分の無力に思いを馳せながら食事をとる王太子をナルサスはじっと観察していますが、アルスラーンの再度の助力の求めは断るナルサス。
そこで、アルスラーンは一つの提案をします。
「私はお主の忠誠を求める代わり、十分な代償を支払う。金でお主の忠誠心が買えるとは思わぬ。私がルシタニアを追い払いパルスの国王になった暁には……ナルサス卿、お主を宮廷画家として迎えよう」
宰相でなく、宮廷画家として迎える。
ふいをつかれたナルサスの表情。
「フフフフフ…気に入った!なかなかどうして!!」
一瞬で心を掴まれた自分自身を鑑み、人の上に立つ者に必要な人心掌握術、人の心の機微をとらえる君主としての度量をアルスラーンに見出したナルサスは、旗下に入る決意をするのです。
ダリューンはアルスラーンをただ「繊細で優しい方」とのみ見ているようですが、ナルサスはもっと別なものを見ている様子。
いやはや、これから殿下が人をたらし込みながら成長していく姿を拝めるなんで、もう毎週ドキドキワクワクですよ!
のしあがり系のお話は大好物です。
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